ハワイへの旅 3日目①
- tripampersand
- 2016年4月12日
- 読了時間: 6分
さて、カウアイ島二日目の朝。小鳥の囀りに促されて、目を覚ます。
カーテンを開けると、昨日の出来事が全て夢かと思われる世界が広がっていた。小枝の合間を飛び回る鳥は鮮やかな赤。その木々の向こうに広がる丘陵。よく見ると、馬が草を食んでいる。
これだ、これ!私が満喫したかった南国リゾート、のんびり旅。
朝食は部屋の前、中庭のテラスで、ということだった。ドアを開けると、すでに二組が食事中。
「Hello!]
と、挨拶を交わして気がついた。うち一組の若いカップルの男性はよく見ると……
そう、昨日迎えに来てくれたお兄さん。え、もしかして、宿泊客だったの!?ほんと、ありがとうございました。恐縮しきりです。
生憎の曇り空だったけれど、屋外で食べる食事は最高。プレート一杯に盛られたフルーツは見た目にも感動。ドラゴンフルーツにパパイヤ、オレンジにブドウ。ヨーグルトとシリアルのトッピング、更にカリカリのトーストが添えられていた。私のツボにドンピシャな朝ごはん。
残り一組は、アメリカからの中年夫婦。今日は渓谷を見に行こうかどうしようか考えてるんですけど話していると、
「あら、そうなの!私たちは昨日行ったんだけど、ほんと、もう素晴らしくて!景色が最高よ!ヴューポイントがたくさんあって、ねぇ、あなた。私たちは何回車を停めたかしら……」
と、ご婦人の話は続く。
「そうだな。そうだな。楽しんでくるといいよ」
どこかカーネルサンダース(ケンタッキーの創始者)に似た(というか、私の記憶の中では、既にカーネルおじさん)旦那さんにも激しく同意され、本日の予定はあっさり決定。
昨日の夜とは別世界。妹が運転に慣れてきたせいもあって、景色を楽しむゆとりもある。何しろ、道路標識だって地図だって読める。時折シャワーを浴びるものの、快適なドライブをしばし楽しむ。
ところで、ここ、カウアイ島の人気土産の一つにdirt shirtというものがある。名前の通り赤茶色の土でTシャツを染めたものだ。洗濯すると一変に水が赤くなると評判……。つまり、染料になるくらい、土が赤い。時折、その土がアスファルトの上にまで進入し、道を赤く染めている。その土を踏みつけて辺りをうろうろした後、車に乗り込むと、どういうことになるか、想像に難くないだろう。返却するころには車内は泥だらけだった。

目指すは、流れ出した溶岩によって生み出されたワイメア峡谷。ほとんどすれ違う車もない山道をひたすら上っていく。そして右手に見えたのが「展望台」のサイン。「太平洋のグランド・キャニオン」の異名を持つ絶景が楽しめるとあって、期待に胸が高鳴る。
そして、展望台に車を停めた私たち。外へ出ると、
「え、何?ニワトリ!!???」
駐車場を我が物顔で占領する鳥たち。観光地で餌を求めて群がる鳩を想像していただきたい。あれが、ニワトリだとしたらどうなるか・・・異様な迫力である。ただしヒヨコは別格。何羽かカメラに収めるも、拡大して撮影すると、小さいからこその可愛さも台無し。こうして無駄なショットばかりを持ち帰る私達。
さていよいよ、と絶景を拝みに向かうが、肝心の渓谷が見当たらない。
そう、辺りは一面深い霧に包まれていた。張り出した展望スペースの向こうには「太平洋のグランドキャニオン」があるはず……。周囲の観光客も霧の中を透かして見えないかと、一様に真っ白な空間を見つめている。しばらくウロウロするも、霧が晴れる気配はなし。仕方なく、白いキャンバスの前に立って、ハイ、チーズ!(再び無意味な写真を追加。)
私達は更に山を上って、別のヴューポイントを目指すことにする。そこからは、フィヨルドのように切り立った尾根が連なる、カウアイ島のもう一つの目玉スポット、ナ・パリ・コーストの一端を眺められるという。進むにつれて道幅は狭くなり、カーブも増える。それはまだいい。漂い始めた不穏な空気の原因は……霧だ。
不安な気持ちに呼応して、車のスピードも徐々に落ちる。
「……ちょ、ちょっと、どうする」
「なんか、ヤバイよね」
うん、そうだね、とか言っているうちに、とうとう視界は数メートル。そして、
「も、もう、無理!」
妹が叫ぶまでもなく、明らかだった。
私達は霧の真っ只中。最早、目の前の地面さえ見えない。対向車のライトが突然霧の中から現れて、寿命の縮まる思いがする。停まろうにも、どこに路肩があるのかわからない。ほとんど歩くようなスピードで走っていると、何やら霧の中で動くものが。それは、これからトレッキングを楽しもう、という登山客一行だった。視界ほぼゼロの中、ほとんど道幅にゆとりのない車道を談笑しながら歩くなんて――。
命は大切にして下さい。というか、更にこちらの寿命を縮めるような行為は頼むからやめて下さい。
どうにかUターンできそうな場所を見つけた私達は、泣く泣く引き返すことにする。
今日は一体、何をしに来たんだろう。お昼だって、「最大のご馳走は壮大な景色!」とばかり、昨日食べ残したパンと、非常食として持ち歩いていたナッツ&レーズンで我慢したのに……。
しかし、捨てる神あれば、拾う神あり。
どうしても諦め切れなかった私達は、一縷の望みを託して、ワイメア渓谷が拝める展望台にもう一度立ち寄ってみることにする。小雨が降りしきる中、階段を上っていくと……。

目の前に、息を呑む風景が広がった。
風雨に削られた剥き出しの岩肌。谷底に生える木々は緑の川となってどこまでも続く。
展望台には柵が設けられているが、すぐに乗り越えられそうな簡易なもの。その先はすぐに急斜面となっている。一度足を滑らせれば下まで真っ逆さま。谷底まで1000メートルを超えるというから、落っこちたら助からないだろうな、なんて考えると、心なしか腰が引け気味。
そんな斜面にへばりついて木の芽を食べる小鹿発見!もちろん、たちまち観光客のアイドルに。傾斜はほぼ垂直に近くみえる。何もわざわざこんな所で食べなくても、と思い、ふと考える。もしかして、確信犯???周囲のもっと安全な場所にも似たような木々がたくさん生えているし・・・・・・。
満足気分で山を降りる。しかし、そろそろ妹も疲れてきたのか、運転が荒くなる。
案の定、酔ってしまった。慌てて酔い止め飲むも効果なし。本格的に雨も降り出し、気分は最悪。
けれど、けれど、私にはどうしても行きたい場所があった。それは行きしに見かけた、アイスクリーム屋。気分が悪い、といいつつ、こってり甘ーいアイスをこれまた甘い甘いワッフルコーンとともに食せば、車酔いだって治る!
その駐車場で、ハワイの田舎の大らかさを実感する光景を目にした。
私達の車の横に停めてあったのは、いつ洗車したんだろう(というより、いつから乗っているんだろう)と思わず見入ってしまうくらい、立派に乗り古された一台のバン。そして運転席は・・・なんと、ドアがなかった。まあ、盗まれる心配はしなくてよさそうだけど。車内も期待を裏切らない状況だった。お願いされても、乗りたくない……。
まだ日暮れまで時間もあり、ドライブを楽しみながら、海沿いの道を帰る。テトラポットに打ち付ける波は荒く、沖合いには白波が立つ。サーファーに人気というのも頷ける。
そんな中一人の少年が、今まさに、岸から離れ、沖へと漕ぎ出そうとしていた。
私たちは車を停めて、彼を見守る。
数分が経過。
「ねえ、彼、進んでる?」
どちらかというと、押し戻されているような・・・。
命がけ(これほど波が荒いのだから、岸壁に叩きつけられたら、ただではすまないだろう。)のわりに、サーフィンって楽しそうじゃないね。と思ったのは、妹も同じか、
「いこっか」
というと
「そうやな」
と素っ気無い返事。
必死に波を掻き分ける彼の健闘を祈りつつ、その場を離れた。
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