ハワイへの旅 3日目②
- tripampersand
- 2016年4月12日
- 読了時間: 6分
田舎を旅して困るのは、手ごろな場所にスーパーマーケットがないことだ。
食材の調達はスーパーで、と決めている(暗黙の了解)私たちにとっては大問題である。
(単に現地のスーパーが大好き!なだけかも。)
宿周辺にはスーパーが見当たらなかったので、少し通り過ぎて、コロアという次の町まで行ってみることにする。
宿のある町からそれほど遠くないはずなのに、三十分(ほとんど百キロで)走っても着かない。
疲れの出てきた妹の顔には、やっぱり来るんじゃなかった、と書いてある。しかし、引き返すにも、その前にみたスーパーまではやはり三十分以上はかかるだろう。
そして飛び込んできたサインは「ポイプ」。
「え、ポイプってコロアの次の町ちゃうん?」
いつの間にか、コロアを通り過ぎていた私達。
取りあえず「SHOPPING」という看板を見つけたので、車を降りる。
ショッピングモールなのだが、どこか雰囲気が違う。
女性はサマードレスを着ていたり、男性はジャケットを羽織っていたり。
この辺りはビーチリゾートとして有名なだけあって、客層が違う。
レストランの入り口には松明が掲げられていたりして、ピーチサンダルにTシャツだと、入るのが少々躊躇われる。
モールにはスーパーというより、コンビニに毛が生えたような店が一軒あった。言わずもがなで少々お高め。
とにかくサラミとチーズとクラッカーを手に取りレジへ向かうと、7ドルちょっとの買い物だった。
あれ、サラミ&チーズで3ドル少々だったはず・・・とレシートをよく見ると、
「クラッカー、4ドル」
ってことは、一箱500円!え、どうみたってこれ、百均で売ってそうなやつなのに・・・
と思ったが、こんなハイソな場所で数ドルに抗議するのも憚られ、「高級」クラッカーを手に家路に着く。
(これが安い買い物だったと感謝することになるのは後の話。)
帰りは別ルートでわずか十分。
(後から気づいたが、行きと帰りでちょうど二等辺三角形を描いて走った私達。長い二辺を行き、底辺を走って帰ってきた。)
そんな中、今日二度目に死にそうな目に合う。
ちょうど夕暮れ時で、日がどんどん沈みかけている時だった。
アップダウンのある道の、坂を上りきった途端、視界が赤く染まった。そう、真正面に、いきなり太陽が現れたのだ。
妹が悲鳴をあげる。
「前が見えへん!!!」
気がつくと、人の家の敷地に半ば侵入するような形で止まっていた。
太陽の残像が瞼の裏でちらつく中、日が完全に落ちるまで、そのまま待機。
カヤックの際、サングラスを落としてなくしたのは自分のくせに、「貸して」と叫んだのに、すぐに私が(私の!)サングラスを貸さなかったのが悪いと責められる。
こうカリカリするのも、お腹が空いているせいなんじゃないか。もっとちゃんと(高級クラッカーじゃなくて)食べるべきじゃないか。
ということになって、結局、宿近くのサブウェイでサンドウィッチを購入することとなる。
何しにポイプまで行ったんだろう、という後悔はこの後、更に膨らんだ。なぜなら、宿に向かう頃には、すっかり薄暗くなっていたのである。
嫌な予感が走る。
「こ、この道で、あってるよな」
「う、うん」
「あれ、次は、右、やんな?」
「えっ?左、じゃなかったっけ」
更に進むと、
「こんな、風景やったかな?」
左手には牧草地が広がり、時々、牛が草を食んでいる。
「さ、さあ・・・どうやったっけ」
私は勇気を振り絞って言ってみる。
「ごめん。さっき、左っていったけど、もしかしたら、右やったかも」
宿は高台にあるはずなのに、一向に坂道を上がっていく気配がない。
責任を感じた私は、車を降りた。
子どもが家の前で遊んでいる子どもに近づくと、側には父親らしき人物がいた。
「あの、すいません」
話しかけてから、人選を誤ったかもと、思い始める。
子どもはかわいらしいのに、父親はにこりともしない。
「道に、迷ったみたいで。宿を探しているんですけど・・・」
彼はしばらく無言だった。なんか、怒ってる?気に障ることしたかな、と内心ビクビク。
「車をもっと、寄せて」
確かに道路の真ん中に、私達は車を停めていた。(といっても、二台すれ違えるほどの道幅はなかったが。)
「はい、ただいま、移動いたします!]
機嫌を損ねてはならないと、慌てて妹に告げに行く。戻ってくると、
「ほら、この先に明かりが見えるだろ。あれを過ぎると分かれ道があるから、そこを上がるんだろ。俺も、行ったことないから、確かじゃないがね」
と、やはりにこりともせず教えてくれた。
正直、「この先」と「あの明かり」以外、何を言っているのかほとんどわからなかったので、私の想像だけれど。
そんな私を見て心配になったのか、
「あの明かりのところだよ。あそこを過ぎたらすぐだからな」
というようなことを三回は繰り返した。
彼は単に無愛想なだけで、よい人だった。
言われた通り引き返し、坂道を上がり始めた時には、すっかり暗くなっていた。
そして、恐れていた事態に直面する。
真っ暗で、何も見えない。車のヘッドライトだけが頼りだった。
「あ、ここ右に曲がれるんちゃう?」
と、曲がった先は人の家の庭だったり(しかも車を降りて確かめないとよくわからなかった。)、なんてことも起こってしまうくらい暗い。
森の中をノロノロと進み続けると、視界が開ける場所に出た。
「部屋から見える景色って、こんなだったっけ」
そこからは、下のほうにぽつんぽつんと点在する家々の微かな明かりが見えた。
「言われてみれば、上りすぎてる気もする」
「でも、右に曲がる道(次に右に曲がらなければいけないことだけは確か)なんてなかったやろ」
道は、まだ上へと続いている。進むべきか、戻るべきか。
「ちょっと、ここで待ってて。来た道、歩いて確かめてくるわ」
私は意を決して車を降りる。
車から遠ざかるに従って、心に押し寄せる不安。カーブを曲がると暗闇が待ち構えていた。
響くのは自分の足音と鼓動の音。
しばらく行くと道路わきに番地を示す札が立っていた。しかし、奥まって建っているので、この暗がりでは家自体がよく見えない。
しかも、どの家も大きいので一軒通り過ぎるために、何メートルも歩かなければならない。
やがて、待ちきれなくなった妹のヘッドライトが後ろから差して来た時には、心底ほっとした。
大見得切った以上は、私からは戻れない・・・なんて意地を張っていたのだった。
このままでは埒が明かない。
私は比較的、道路側に建つ一軒に狙いを定めた。
「すみませーん!」
庭先に入り込み、声を張り上げる。ドーベルマンなど飼っていないことを祈るばかり。
明かりは点いているので、誰かいるはずなのだが、応答はなし。
そこでもう少し中に入って、部屋を覗いてみる。
「すみませーん!」
人影は見当たらない。
最後の手段、私は玄関の扉の前に立ち、激しくドアをノックした。すると、ようやく中から人の声がした。
顔を覗かせたのは、初老の上品な女性。
(ドアの隙間から見えた玄関ホールは天井が高く、アンティーク調の家具が品よく配され、私のイメージするまさに「お屋敷」だった。)
「あの、道に迷ってしまって・・・」
この二日で何度このセリフを口にしたことだろう。
初めは驚いたような顔をしていたが(それはそうだろう。こんな山奥、こんな時間に観光客がウロウロしているなんて、怪しすぎる)、すぐに懐中電灯片手に出てきてくれた。
そして数メートル歩いたところで、
「ほら、ここに道があるでしょ。たぶん、ここを行けばいいわ」
と懐中電灯で照らされた先には確かに道が・・・
教えられるまで、道があることに全く気がついていなかった私達。
彼女のおかげで、どうにか辿りついたのは、「今日は早く寝よう」と心に決めた当初の予定では、とっくにベットに入っている時間であった。
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