ハワイへの旅 5日目②
- tripampersand
- 2016年4月12日
- 読了時間: 6分
道はまだまだ続き、一向に「見晴らし」の良いスポットは現れない。
いい加減、お腹も空き、疲れも出てきた。どこかで座ってちょっと休憩、といきたいところだが、腰を下ろす場所がない。
アスファルトの道はとっくになくなり、ぬかるんだ泥道に変わっていた。両側は鬱蒼と茂った森。(怪しげで立ち入ろうという勇気が出ない。)
本当に文字通り、腰を下ろせる場所がなかった。時々立ったままお茶を飲み、飴を舐めて空腹を凌ぐ。
やがて、前方が俄かに明るくなってきた。
もしかして!!!
気分は小走りで、先を急ぐ。(実際は疲れているので、そんなことできない。)
坂を上りきるとそこには・・・・・・。
期待も虚しく、私たちが目にしたのは、炎天下に続く赤茶けた道。
日陰もなく、周囲を囲む山々が視界を遮り、「見晴らし」はいつになったら拝めるのか全くわからない状況下、黙々と歩く。
すると、歩き始めてから何度か通り過ぎたチャレンジャーな車(ジープ以外であの川を渡った度胸に拍手したい)の一台が、引き返してきた。
チャレンジャーな車のほとんどがカップルだったが、この車も例に漏れず、男女二人組み。
「この先、水が溜まってて、通れそうにないわよ。車が一台立ち往生しちゃってるから、私たちは帰るわ」
と親切なアドバイス。
ほどなく、姿を現したのは、超巨大な水溜り。向こう側まで十メートル近くある。そしてそこに浸かったジープが一台。
既に二本の川を渡っているのだ。ここであきらめるわけには!と思ったもの、先ほどとは違って、澱んだ泥水のせいで、どれくらいの深さなのか、中がどうなっているのか全くわからない。
流れはないものの、足元が見えないというのは、かなりの恐怖感。(ワニでもいたらどうしよう、と真剣に考えてしまう。)
それでも恐る恐る足を踏み出し、太もも辺りまで水に浸かりながら(水着を着ておけばよかったというくらい、ズボンはびしょ濡れ)一歩ずつ進む。
ゴール近くで立ち往生のジープに近づくと、中には若いカップルが、疲れた表情でただ黙って座っていた。手は尽くし、助けを待つといった所か。
ハーイと躊躇いがちに挨拶を交したものの、後に続く言葉は出てこない。
結局、笑顔でごまかし、横を通り過ぎる。
この難所を抜けると、有難いことに、道は森の中へと続いていた。これでようやく照りつける太陽とおさらばできる。その分、道の泥濘はひどくなったが、すでに泥はねは気にならなくなっていた。

何を間違ったのか、スカートを履いていた妹の足は、泥はね模様できれいに埋め尽くされている。
既に休みなく、2時間は歩き続けていた。その上、ここにきて、道が二手に分かれることがしばしばあった。
私たちのゴールは見晴らしの良い高台に上ること。
日本から持参したガイドブックやドライブマップにはもちろん、こんな道が載っているはずもない。
私たちは野生の勘に頼り、少しでも上り坂と思われる方を選んでいたが、いつも一筋縄ではいかず、上っては下るの繰り返しだった。
「ねえ、そろそろ・・・」
認めたくないが、タイムリミットだった。
オアフ島へ戻る飛行機の出発に間に合うためには、そろそろ引き返さなければならない。
「じゃ、次の坂を上りきったら・・・」
坂を上る度に、眼下に広がる素晴らしい展望を期待して、その度に裏切られてきた。
そしてやはり今回も、上った坂の頂上は、新たな坂道の始まりでしかなかった。
どうにか乾いた場所を見つけて腰を下ろし、持参していたクラッカー(あの、法外に高級だったクラッカー。買っておいて本当によかった)を齧る。
二人とも、言葉少なだった。
このままここで昼寝でもしたい気分に襲われるが、時間がなかった。休憩もそこそこに文字通り、来た道を引き返す。
暗い気持ちを吹き飛ばすため、二人で歌を歌いながら道を歩く。幸い、人に聞かれて恥ずかしい思いをする心配はほとんどなかった。
日が傾き、行きより薄暗く感じられる森の中を歩いていると、たとえ危険な動物は生息していないとわかっていても、不安になる。
その上、時々ぶち当たる分かれ道のどちらから来たのか、妹と意見が食い違った後なんかは、歌でも歌って気を紛らわせないとやっていられない。
どうにか巨大水溜まりの辺りまで戻ってくると、やっと人心地ついた。ここからは一本道が続いていたはずだ。
その時、前方から人の話声が近づいてきた。通り過ぎる車はあったが、歩いている人には出会わなかったので、嬉しくなって思わず話しかける。
「こんにちは!」
インド系と思われる5人程のグループ。
聞くと、彼らはすぐそこに車を停めて、歩き始めたところだった。
手には「トレッキング」ガイドブックを持っている。
「今はこの辺だよね」
と、中の一人が指差した場所は、山頂からはまだ程遠い地点で、他にも無数に伸びるトレイルがいくつも山の中へ続いているのを見て、背筋がちょっぴり寒くなった。
無謀にも、ろくな備えも(地図もなく)山頂を目指そうとしていたのだから。
「この先もずっとこんな感じ?」
こんなというのは、こんな「泥道」というわけ。
「Yes」
と答えながら、そうか、これは行くのを躊躇うような「泥道」だったんだ、と改めて気がついた次第。
彼らと別れて水溜りに差し掛かると、カップルのうち、女の子が一人、水溜りにむかって石を投げつけていた。
もう一人は車の中で、辺りに漂うのは何やら不穏な空気。
そんな二人の側を、みっともなくジーンズとスカートをたくし上げ、再び通り過ぎる。
せめて、食料でも分けてあげればよかったか、と思ったのは、後の話。
二人が上手く関係を修復できたことを今は祈る。
来た道をただ戻るというのは、想像以上に辛い仕事だった。
汗と泥にまみれながら、惨めな気持ちで歩いていると、後ろから車の音が近づいてきた。
はっとして横に避けると、一台の黄色いジープが通り過ぎた。そして、突然、前方で停まる。
「ねえ、よかったら乗っていかない?」
私たちの警戒を他所に、降りてきたのは若い女性。なんだかデ・ジャ・ブのようなこの光景。
「下まで行くんでしょ?」
「あ、でもこんな泥だらけなんで」
「私たちも変わらない格好だから、そんなの気にしないで。ほら、乗って、乗って」
彼女の他に同乗者は二名。アメリカから来たという彼女たちと私たちは全員同じ年だとわかって、一気に打ち解けた。
彼女たちはジュラシックパーク撮影現場を見に行ったとのことだった。
そういえば、いくつかの映画がこの島で撮影されたとは聞いていたが、まさかこの先にそんなスポットがあったなんて。
時間にすれば二十分ほどだったけれど、陽気で気さくな彼女たちにすっかり癒されて、車を降りるときは分かれ難い感さえあった。
このご恩は忘れません、と思いつつ、別れの際にお礼として差し出せたのは日本から持参して、すっかり折れたポッキー。
彼女たちとの出会いのおかげで、ビーチサンダルでの悲惨な山歩きも、心温まる思い出として残すことができた。
人の優しさは本当に、心に染みるものである。。。
カウアイ島からオアフ島に向かう飛行機のアテンダントはなんと、行きと同じお姉さん(フライトアテンダントというより、コーヒーショップの店員といったフレンドリーさ)だった。
カウアイ島。そこで出会った人々に感謝の気持ちを込めて、段々と小さくなる島影に、さようなら、と心の中で呟いた。
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