ドイツへの旅 4日目② ニュルンベルク→アンスバッハ→コルムベルク
- tripampersand
- 2016年5月14日
- 読了時間: 5分
まずアンスバッハまで列車で向かい、そこからバスに乗ってコルムベルクを目指す。
バスだと一々アナウンスも流れないし、どこで降りるかがわからない。乗車の際、運転手にコルムベルクに行くからと伝えたものの、理解されたのか甚だ怪しい。更に彼が覚えていてくれる保証はないと、過去の教訓が告げている。目的地への到着予定時間だけは調べていたので、時々腕時計を確認し、自分を安心させながらの旅路となる。
アンスバッハをあっという間に抜けて、バスはひたすら畑の中を走った。乗り降りする人はもちろん、車とすれ違うことも滅多にない。
だから、バスは高速でもない細い田舎の一本道をびゅんびゅん飛ばす。速度が落ちたなと思ったら、集落に近づいた証拠。家々の間をゆっくり通りぬけて、また次の集落へと向かう。
「ねえ、あれじゃない」
妹に指差された方を見遣ると、小高い丘の上に建つ塔のような建物が見えた。起伏がなだらかな地域だけに、遥か遠くまで見渡せる。到着予定時間も迫っているし、他にそれらしき影はないから、きっとそうだろう。
そうして全く気が休まらなかったバスの旅を終え、降り立ったのはひっそりとした町。一緒に降りた男の子が去ってしまうと、誰もいなくなった。ここが町の中心だと言われなければわからない。町中の人が知り合いでもおかしくないくらいの規模だ。
約束の時間に二十分ほど遅れて、宿から迎えのおじさんがやって来た。もう忘れられたんじゃないかと諦めかけた頃に。「古城ホテル」からの迎えとは思えないほどラフな格好に、それがぴったりなボロいバン。後部はトランク。座席は運転席とその隣しかない。
私達はぎゅっと詰めてその唯一空いた席に座る。
もし大女だったらどうする気だったんだろう。
おじさんは英語が全くできないので、道中は無言。来た時からおじさんの機嫌は良くないようだった。待たされた上にこの待遇で、機嫌が悪いのはお互い様。
幸い、バス停からは五分で着いた。微妙な空気でチップも渡しそびれてしまった。

けれど、建物内部に一歩足を踏み入れると、そんなもやもや気分は一気に吹き飛んだ。「古城」に相応しく、時の流れが刻まれた数々の調度品。軋む床。木製の階段は長い年月を経た証拠に中央が窪んでいる。階段を上がった広い踊り場は書斎スペースになっていて、どっしりとした本棚が応接セットを囲んでいる。
更に上がると、鹿の角や剥製がこれでもか、と壁一面に並んでいた。
そして私達が泊まる部屋。

ドアを開けると、豪華な二つのベッドと、石造りの壁を大きくくり貫いた窓が目に飛び込んできた。
窓によって切り取られた景色が部屋を飾る。入り口横には大きな鏡台と、反対側には立派なワードローブ。木製のベッドと鏡台の縁には見事な彫刻が施されている。天井は高く、傾斜していて、屋根を支える木製の梁が見える。バスルームは白で統一され、タブにはジャグジーまで付いている。窓辺に腰掛ければ、遥か彼方で山々によって縁取られる緑の大地が見渡せる。
わざわざここまで来た甲斐があった。
まだ日も高かったので、町を探索してみることにする。城の周囲はゴルフ場になっていて、鹿が何頭も草を食んでいた。ホテルを出て、坂道を下りきったところがメインストリート。
バス停の前を通り過ぎ、恐らく町で唯一のスーパーで、お客さんに通訳してもらいながら切手を買う。
その数軒隣りが雑貨屋、なのか花屋、なのか。またもやアンテナが反応。花や鉢植えと共にオーナメントやガーデニングにぴったりな小物を売っている。店員さんの笑顔も素敵だ。

集落の合間を気が向くままにぶらぶらしていると、奇妙な物に出会った。玄関先に立てられた2メートル程のポール。先端には鳥がついていて、その下には子どもの服や靴がぶら下がっている。
すると偶然、先ほど切手を買う際に助けてくれた若いお母さんと子ども達がやってきた。
「ああ、これね。ここは最近結婚したカップルの家でね。彼らは今、新婚旅行中なのよ。これは子宝に恵まれるように、って意味があって、この辺りの風習なの」
よく見れば、先に付いた鳥がくわえているのは小さな赤ん坊。そうか、コウノトリだったのか。
「私は、やらなかったけど」
と彼女は笑った。
でも、かわいい子ども達を授かったってわけだ。
素敵な再会にちょっと幸せな気分を分けてもらって、手を振って彼女と別れる。
夕食はホテルに併設しているレストランで。
前菜、スープ、メインディッシュから一品ずつ注文。
ウェイトレスは気を利かせて
「全部、いっぺんにお持ちしましょうか?」
と尋ねてくれた。
今まで入ったどのレストランより格式高い雰囲気だったし、せっかく優雅なお城滞在しているのだから、ワインを傾けながらフルコース、という大人な女性に成りきりたいところだったけれど、胃袋は急には大きくならない。
前菜はスモークフィッシュの盛り合わせ。彩りも美しく、繊細な味。ホイップクリームのように絞り出して添えられていた西洋わさびと共にいただく。

幸せ。
それから肉団子入りのスープ。南ドイツ名物の細長く切ったクレープ生地が入っている。そしてチーズとハムを挟んだカツレツ。サクッと仕上がっているので、ボリュームはあるけれど、くどくなりすぎず、存在感のある一品。もちろんドイツパンもついてきて、二人で分け合っても十分過ぎる量だった。
満腹のお腹をジャグジーの泡の中に沈めて、温まった体でベッドに潜り込りめば、瞬く間に睡魔に襲われる。せめて夢の中だけは淑女になりきることとしよう。
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