ドイツへの旅 4日目① ペグニッツ→ニュルンベルク
- tripampersand
- 2016年5月13日
- 読了時間: 5分
今日は二人で朝食を摂る。ダイニングに並べられていたのはライ麦パンにチーズにハム。ドイツにいるんだなぁ、と実感する。

食事を終えた私達はホテルを立つ前に、散歩に出かけることにした。滞在していたのは家族経営の古城ホテル。そう、お城といっても家族で運営できるくらいの規模であり、内装もどこかアットホーム。周囲に広がる庭もちょっと見て回るのに適度な広さ。植えられた花々も素朴で、Gパンにスニーカーでも全く違和感なし。
そんな庭をぐるっと取り囲む城壁に沿って歩いていると、一匹の猫が寄ってきた。ちょっと撫でてやると甘えた声を出す。私達は庭の端まで行ってから、城壁の反対側に立つ塔へ上ることにした。崖の上に切り立っている石造りのその塔がもっとも古城らしい部分かもしれない。その間も猫はとことこ後ろを着いて来て、私達が止まれば止まる。

塔の内部には階段が設けられ、上まで上がれるようになっていたが、かなり急で息が切れてくる。途中でお腹の大きい妊婦さんが下りてきた。もう諦めて引き返そうかと思った自分を恥じる。ただ、塔の入り口までは確かに付いて来ていた猫の姿は、いつの間にか見えなくなっていた
すっかり息が上がってしまったものの、私達はどうにか天辺までたどり着いた。所々壁が四角くくり貫かれている。切り取られた景色は一服の絵画のように私達の目を楽しませる。城はただでも高台に立っていて、もちろん、他に高い建物もないので、四角い穴に顔を突っ込めば、遠くまでよく見渡せた。長閑な景色はどこまでもどこまでも続いている。
息が整うまで景色を堪能し、また一運動。下まで戻ってくると、猫はちゃんと私達を待っていた。庭を横切って宿の玄関に向かう間もひょこひょこ付いて来る。こんな姿見せ付けられたら犬派だって宗旨替えするしかない!


ほのぼのとした出会いに後ろ髪引かれる思いで城を出発。今度は真っ直ぐ駅までの道を下ると、あっという間に到着した。小さな駅なので、券売機もホームにある。まだ、時間は大丈夫だよね、と、停車している電車を横目に切符を買っていると、ふいに電車が動き出した。
「うわ、どうしよ。乗り遅れたやん!」
地方の小さな駅。次の電車は一体いつくるのか・・・。
いつものように妹と口論が始まった時、怪しげなおじさんがドイツ語で話しかけてきた。前方を指しながらしきりに何かを訴えている。
だから、ドイツ語はわからないんです。
あまりに真剣なのでちょっと怖くなる。ほとんど怒られているとしか思えない。どうしても通じないと諦めた彼が離れて行き、正直ほっとしていると、背後から英語が聞こえてきた。
「ニュルンベルク行くの?だったら、前の乗り場からローカル線が10分後に出るから、それに乗ったらいいよ」
言われたとおり、前方にある一段と幅が狭くなったホームへ歩いていくと、先ほどのおじさんがいた。
気まずい表情を貼り付けたまま、「ダンケ」と告げる。おじさんは笑顔…だったと思いたい。
やってきた電車は各駅停車。
もう何度目かのルートだけれど、これまで速過ぎてよくわからなかった街並みを存分に楽しむことができたのは、うん、確かに良かったということにしよう。
それと引き換えになったのがニュルンベルク滞在時間。本日の宿はコルムベルク。ニュルンベルクからはまた少し西へ向かわなければならないから昼にはこの街を出なければならない。
私達は駅から歩いて十分程のゲルマン博物館へ狙いを定め、列車を降りてすぐに一目散にそこへ向かった。
敷地面積もコレクションも多い、立派な博物館なのに、来館者は驚くほど少ない。あまりに人気がないので入り口を通り過ぎてしまったくらいだ。
まずはロッカーに荷物を預けることにする。機内持ち込みサイズのスーツケースだったのが幸い。本当にぎりぎりの大きさだ。真新しかったケースだが、多少の傷が増えたところでわからないくらいになっていた。とにかくロッカー自身も想定外のそれを無理矢理押し込んで、展示を見始めると、係員のおじいさんが寄って来た。
「ちょっと、あなたのそのリュック。預けてもらわないと」
笑顔で小言を言われる。
妹は貴重品を入れたリュックを背負っていた。おじいさん、許してくれそうもないので、それを置きにロッカーへ引き返す。やれやれと思って、見学を再開すると、またおじいさんがやって来た。
「あなたのそれも、ちょっとなぁ。作品を傷つけでもしたら……」
今度は私のショルダーバックに文句をつける。なら、さっき言ってよ。他の人も貴重品は持ってるでしょ!と反論するとまた何か言われそうなので
「そうですね。気をつけます!」
と笑顔で返しておく。
おじいさんはそれでも私達を放そうとしなかった。
「この絵はね、デュラーの母親のものでね。十八人の子宝に恵まれたけど、その内の十五人は他界してね。ほら、彼女の目は亡くなった子ども達をみつめているんだよ」
いや、あの、デュラーのお母さんには興味ないんで。
ちょうど新たな鴨じゃなかった、見学者がやってきたので、これ幸いと私達はその場から逃げる。
絵画コーナーを足早にめぐって、楽器コーナーへ向かう。廊下がやたらと長い。考えていたよりずっと内部は広かった。展示を見ている時間と移動している時間は同じくらいだったかもしれない。
たどり着いた楽器コーナーで目を引くのはずらりと並べられた鍵盤楽器。それから再現された楽器工房。そういえば、私達の持っている楽器(バイオリンとビオラ)もドイツ生まれだな、なんて感慨に浸っているうちに、電車の時間が迫る。他の展示も素晴らしいのだろうが、泣く泣く諦めて駅へ取って返すことにした。
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