ドイツへの旅 6日目② コーブルク
- tripampersand
- 2016年5月24日
- 読了時間: 3分
幸い、おじさんは追ってこなかった。
もし、この公園のことを知っていたのなら諦めてもおかしくない。それくらい、私達が足を踏み入れた公園は広かった。
一旦歩き出せば、歩くしかない。
もちろん、荷物を預けられるような場所も見当たらなかった。
公園といっても、平地に広がっているわけではなく、丘陵を丸ごと整備しました、という感じで、途中にはグラススキーができそうなほど見晴らしの良い緑の斜面が広がっていたりする。
すれ違うのはマラソンを楽しむ市民や犬の散歩中のカップル。
当然、要塞はその丘の天辺に位置している。
スーツケースを引きながら木々の合間をひたすら歩く私達は場違いというより、滑稽に見えたかもしれない。手を離すとあっという間にケースはすべり落ちていくので、写真を撮るにも注意が必要。
まさかスーツケースを引きながらこんな坂道を延々歩く酔狂者がいるなんて、スーツケースメーカーも予想しなかったに違いない。普段は便利な4輪タイプなのが恨めしい。
歩き辛いブーツを履いてきた妹はどんどん遅れ、最終的には全く無口になってしまった。スニーカーの私はまだましだったはずだけれど、妹を気遣う余裕なんてなかった。仕方ない。それも自業自得。人間、何か(オシャレ)を得るためには何か(快適さ)を諦めなければならないこともある。

1時間近く歩き続け、目的地にたどり着いた時には完全に息が上がっていた。
やれやれ、と思ったのも束の間、目の前の光景が更に私達を憂鬱にさせる。
要塞の周囲は砂利道。
ベンチに座ると立ち上がる気力が沸かない。
これを引いて要塞を見て回るのはどうみても現実的ではない。
追い討ちをかけるように、一人の上品なおばあさんが話しかけてきた。
「申し訳ないけど、このスーツケースで歩き回るのは無理だと思うわ。私は今、行ってきたのだけど。ずっとこんな砂利道よ」
私達のスーツケースを試しに押してみながら、ご親切なアドバイス。
その辺の茂みにでも隠して行こうと提案してみたが、そんなリスクは犯せないと妹に素気無く却下。
交代で見に行くか、これを抱えて歩き回るか、無理矢理引きずっていくか。究極の三択。
その時、賑やかな車のホーンの音が聞こえてきた。
何事かと思って要塞の入り口へ目を遣ると、ウエディングドレス姿の女性が駐車場に立っていた。
次々と停車する車から、ドレスアップした若者が現れる。
疲れも忘れて、羨ましく眺めてしまった。ムードは満点。どこに佇んでも絵になる彼ら。
その集団が要塞の方へ消えていくに従って、よし、あそこまでは行ってみようと決意する。
荷物を引きずったり抱えたりしながら要塞の入り口をくぐると、美術館の看板があった。
美術館ならロッカーがあるに違いない!

まだ開館して間もない(そもそも開館していたのだろうか)せいか、スタッフが暇そうにカウンターに屯していた。
英語で話しかけたけれど、返ってきたのはドイツ語。
それでも思いは伝わったようで、特別に大きい荷物入れの鍵を貸してくれた。
美術館の展示も気になるけれど時間がない。私達の目的はこの要塞そのもの。
スタッフの怪訝な視線を振り切って、自由の身となった私達は美術館を出て、要塞探検を開始する。

要塞というだけあって、その塀はどっしりと立派なもの。所々砲台跡も見られる。
まだ霧の影響で、視界が悪いのは残念だったけれど、雰囲気を醸し出すには良い演出。
昔は馬が駆けたのだろう石畳のトンネルの先には、尖った先端が恐ろしい武器にも見える、頑強な柵が取り付けられている。敵の襲撃時には素早く降ろされ、その侵入を阻んだのだろう。

立派な蝶番で留められた扉も、庭の片隅にある今は使われていない井戸も、中世の雰囲気を伝えるのに充分で、ファンタジー好きな私達の好奇心を存分に満たしてくれる。
ただ、苦労が報われたと喜ぶのはまだ早かった。
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