オーストリア・スロヴァキア・ハンガリーへの旅 6日目⑤
- tripampersand
- 2016年7月22日
- 読了時間: 3分
彼女に別れを告げて、日が暮れる前に街へ出かけることにする。
地下鉄に乗ってドナウ川を潜り抜け、やって来たのは川の東側、ペスト地区。地上へ上がってまず目に飛び込んで来たのが国会議事堂。大きすぎて写真1枚にはとても収まり切らない。

その向かいには民族博物館。こちらも威風堂々の佇まいで、建物全体に施された装飾は圧巻。
そこから北へ延びるアンティーク通りを目指して歩き出す。こじんまりしたお店をウィンドーショッピングするのも楽しいけれど、何より、目に入る建物がどれも圧倒的な存在感で、いくらシャッターを切っても追いつかない。建物自体は重厚でどっしりがっしりした印象なのに、ファサードやバルコニー、屋根を取り囲む手の込んだ装飾は繊細で、ごてごてしそうなのに嫌味になっていない。上ばかりではなくて、視線を下げると、歩道脇に思わず投函したくなる洒落たポストや、色褪せてよい味出している店の看板が目に飛び込んできたりして、旅の疲れも忘れて歩き回る。

建物見物の最後に、ハンガリー・アールヌーヴォーの旗手といわれる、レヒネルの遺した郵便貯金局を見に行くことになった。近いはずの自由広場(この周囲もうっとりするような建物がぐるっと続いている)までやってきたが、どうもその建物が見当たらない。広場に立つ警備兵?も厳しい雰囲気だったけれど、もちろん、親切に道を教えてくれる。
郵便貯金局は広がり始めた影に埋もれるように、ひっそりと建っていた。入り口が面する通りの寂しさのせいか(明らかに裏通り)、観光名所とは思えない人気の無さか、知らなかったら素通りしそうな街の雰囲気と、絶対に見過ごすわけはない建物の異質さが対象的で強く心に刻まれた。今でも充分独創的、もっと言えば奇怪なその建築物は、100年前、建てられた当時の人々にはどう映ったのだろう。建築の素人からみれば、とても「建物」という範疇には収まりきらない。「芸術作品」としか呼びようがない。

そして一日を締めくくるのはブダ地区の王宮の丘から眺める夜景。地下鉄とバスを乗り継いで丘の上に降り立つと、藍色の空の下、ライトアップされたマーチャーシュ教会が幻想的に浮かび上がっていた。ドナウ川沿いに迫り出した展望台から対岸を臨めば、金の光に包まれる国会議事堂とくさり橋、本日歩き回った界隈を一望できる。世界遺産を独り占め、なんて気分に浸るには賑やか過ぎるけど、思わず興奮してはしゃいでしまうのは私たちも同じ。

そろそろ帰ろうかとバス停を探していると、人が集まっている一角があった。手にボードを持った男性が近づいてくる。
「一緒に映って!」
と言うことらしい。同じく呼び止められたと思われる数十人の女性達。
これはもしかして、バチェラー・パーティー(独身さよならパーティー)の一貫!?
どうやらこのミッションは無言で遂行されなければならないようで、ボードとそれから激しいジェスチャーで集団の中へ引き入れられた私たちも口を閉じる。異国の地で見ず知らずの誰かの人生の1ページに残される私たちの姿は満面の笑みだったに違いない。周囲の女性達も微笑みながら、それぞれの時間へと戻っていった。
その余韻は、夕食調達のため立ち寄ったスーパーでも、宿で遅い食事を取っている時にも、眠い目を擦りながらシャワーを浴びている時にも、ふわふわと体の中に漂っていて、穏やかな満足感に包まれながら一日が終わった。

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